花粉症は、スギやヒノキなどの花粉に対して、身体が過剰にアレルギー反応を起こしてしまう状態です。花粉が鼻の中に入ると、身体はそれを「敵」とみなし、抗体と呼ばれる物質を作ります。この抗体が結合することで、アレルギー誘発物質という物質が放出されます。これが鼻の粘膜を刺激し、くしゃみや鼻水を引き起こします。また、別の物質が鼻の血管を拡張させ、鼻腔を狭くして鼻詰まりの症状を引き起こします。花粉自体には毒性はありませんが、身体の免疫機能の働きによって、つらい症状が引き起こされるのです。
花粉症の代表的な処方薬には抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬があります。これらの薬は、体内で起こるアレルギー反応を抑える働きがあります。例えるならば、花粉や他のアレルゲンが体内の受容体に結合することを「鍵と鍵穴の関係」として考えると、これらの薬は薬剤自体が「鍵」の役割を果たし、受容体に先回りして結合することでアレルギー反応を防ぎます。
花粉症の薬は早めに飲むことが大切な理由は、薬が効き始めるのに時間がかかるためです。アレルギー誘発物質が受容体に結合してからでは、薬が受容体に入り込むスペースがなくなってしまい、薬の効果が発揮されにくくなります。早めに薬を飲むことで、薬が受容体に結合しやすくなり、アレルギー症状を抑える効果が期待できます。
舌下免疫療法
舌下免疫療法は、花粉症やダニアレルギーの治療法の一つで、従来の抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬とは異なるアプローチを用います。舌下に特定のアレルゲンを投与することで、身体を徐々にそのアレルゲンに慣らし、アレルギー症状の緩和や根本的な改善を目指します。つまり、アレルゲンが体内に侵入してもアレルギー反応を抑える身体の状態を作ることが目的です。
アレルゲン免疫療法ナビ
舌下免疫療法は、スギ花粉やダニなどのアレルゲンを使った治療であり、日本では2014年に保険適応となり、現在は多くの医療機関で行われています。治療には、スギ花粉用のシダキュアやシダトレン、ダニ用のミティキュアなどの薬剤が使われています。また、現在では5歳以上の小児でも治療が可能です。舌下免疫療法は、アレルギー誘発物質を遮断するのではなく、身体の免疫システムを改善してアレルギー反応を緩和する治療法として、注射に代わる選択肢として広く使われています。
この治療についてのデータを見ると、約20%の患者さんは症状が完全になくなり(緩解)、約60%の患者さんは症状が軽減されるということが分かります。つまり、約8割の患者さんには効果があると考えられます。
また、効果が現れ始めるのは早い場合で8~12週間目くらいですが、薬を服用する期間は最低2年間で、3~5年が推奨されています。長く続けるほど、症状の改善が見られる傾向があります。したがって、副作用がなければ、効果を判断するためには短期間ではなく、まずは2年間ほど試してみて評価するのが良いと考えられます。それまでの期間、花粉症のシーズンには抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬などの薬を併用して治療を続けることになります。
舌下免疫療法の治療は花粉症シーズン(1月~5月)には開始することができません。理由としては、治療効果が発現するには少なくとも8~12週間かかることに加えて、花粉症シーズンはアレルギー反応が起きやすくなり、副作用(副反応)が起きやすくなるためです。したがって、理想的には6~7月に治療を開始し、次の花粉症シーズンまでに十分な治療期間を確保することが望ましいです。遅くとも12月末までには治療を開始する必要があります。
舌下免疫療法の花粉症治療薬は、実際の花粉から抽出して作られているため、副作用も花粉によるアレルギー反応の延長上にあります。具体的には、口腔内のかゆみや不快感、のどの刺激感・不快感、耳のかゆみなどがあります。また、重大な副作用として蕁麻疹や呼吸困難などを伴うアナフィラキシーショックという強いアレルギー反応が起こることも考えられますが、これは極めて稀な症状であり、報告された症例も少ないです。治療を開始する際には、患者さんの安全を確保するために、初めて舌下免疫療法を受ける方には、院内でお薬を処方してから実際にその場で薬剤を摂取し、30分ほど副反応の有無を確認することが行われています。