大腸内視鏡挿入法の進歩
- 2021年6月13日
今回は、内視鏡を肛門から入れて大腸の一番奥である盲腸に到達するまでの「挿入」に関する手法について解説します。
大腸内視鏡の挿入の進歩には、内視鏡機器の進歩と、挿入技術の進歩の2つがあります。
内視鏡機器は、国内では主にオリンパス社と富士フイルム社がしのぎを削って開発を行なっております。特にこの20年で内視鏡機器の改良は目覚ましいものがありました。1950年頃に東京大学とオリンパス社が共同で開発した「胃カメラ」が生体内視鏡の始まりと考えられています。当初は生体内をリアルタイムに見ることはできず撮影だけして後で確認するというものでしたが、実際の画像が見ることができるという画期的なものでした。
挿入技術の進歩についてですが、主に「ファイバースコープ」という軟性内視鏡を対象に工夫がなされたものです。「グラスファイバー」という素材は、曲がっていても光を端から端まで伝えることのできる素材で、内視鏡の本体を生体内で曲げながら挿入することを可能としました。それ以前は真っ直ぐな硬い棒のカメラしかありませんでした。今でも膀胱鏡や腹腔鏡などには棒状の硬性内視鏡が使われています。
内視鏡は全長でおおよそ130〜160cmほどあります。このうち手元のダイアルで角度を変えられるのは先端のわずか10cm程度であり、曲げられると言っても大きな制約があります。
大腸全体のうち、上行結腸・下行結腸・直腸は、体の内側に固定されていますが、横行結腸とS状結腸は、ぶらぶらの状態で自由に動くことができます。内視鏡を挿入していくと、まずこのぶらぶらな状態のS状結腸を突破する必要があります。内視鏡を押していくとそれだけS状結腸は伸展しますので、痛みも伴いますし、人によっては内視鏡の長さが足りずに奥まで挿入することができないこともあります。このS状結腸をいかに苦痛なく挿入できるかが腕の見せ所です。
大腸内視鏡の挿入法は代表的な手法は下記の2通りです。
・ループ形成法
S状結腸に入ったあとも内視鏡を押し続けて「α型」あるいは「γ型」になるようにループを作りながらS状結腸を突破するのがループ形成法です。この手法は、S状結腸を伸展させながら挿入していくので、しばしば強い疼痛を伴います。また、S状結腸が過剰に伸展しやすい方の場合は、途中で内視鏡の長さが足りなくなってしまうことがあり、一番奥まで内視鏡を進められないこともありますそのためS状結腸を突破した後にループを解除するように内視鏡をひねりながら引き戻す動作を行う必要もあり、これも疼痛を誘発する原因になります。
・軸保持短縮法
一方で、S状結腸の入り口まで内視鏡を進めた後に、細かくS状結腸の内側のヒダをたぐりながら、ループを形成しないようにストレートな状態でS状結腸を突破する方法を軸保持短縮法といいます。軸保持短縮法は、疼痛が非常に少なく、かつ一番奥の大腸への到達率が高いことが利点です。欠点は、患者さん側の要因でうまくいかないことがあることです。達人が検査を行った場合でも60-80%程度の成功率とされています。
どんな場合に軸保持短縮法が困難かというと、まずS状結腸が癒着をしていて細かくS状結腸のヒダをたぐることが不可能な場合です。癒着とは、手術の影響などでS状結腸の外側で腸管と腸管がくっついてしまっていることを言います。手術以外にもS状結腸に大腸憩室があったり強い炎症があったりする場合にも癒着がある場合があります。
他には痩せ型の女性などで、S状結腸が狭い骨盤内に複雑に折り畳まれて収まっているような場合があります。また肥満の方やご高齢の方で、S状結腸全体が弛緩しているため、ヒダをたぐることが困難な場合もあります。
これらのケースで無理に軸保持短縮法にこだわって検査時間を長くかけると、逆に患者さんの負担が増すことがあります。困難なケースは早めに察知して、鎮静剤・鎮痛剤を併用した上でループ形成法に移行した方がよいこともあり、その判断も検査医師の技術の一つと言えます。
当院でも軸保持短縮法とループ形成法を使い分け、適切に麻酔を用いて、可能な限り患者さんの負担を減らすように工夫しております。よろしくおねがいします。
愛知県名古屋市中村区本陣通2-19
内科 内視鏡内科 糖尿病内科 整形外科
ヴェルヴァーレ本陣クリニック
院長 荻野仁志