大腸内視鏡検査における精度 「ADR」
- 2021年6月10日
なぜ大腸内視鏡検査における精度管理が必要なのでしょうか?
そもそも大腸内視鏡検査を受ける目的はなんでしょうか?
検査受けるケースは大きく以下のように分けられます。
1. 腹痛や下痢など症状がある方に対して、原因を調べるため
2. 一次検診で行われた便潜血反応が陽性の方の二次検査として(=スクリーニング)
3. 以前に大腸ポリープを切除したことがある方の経過をみるために検査として(=サーベイランス)
4. 家族性大腸腺腫症や潰瘍性大腸炎の方への定期的な検査として(=サーベイランス)
どのケースにおいても共通して言えることは、大腸がんの早期発見が重要な目的であるということです。
ここでスクリーニングとサーベイランスについて説明しておきます。
スクリーニングとは、病気のリスクの有無にかかわらず、その人に病気が存在するかどうか網羅的に検査を行うことです。いわゆるがん検診ですね。大腸がんの場合、日本や欧米諸国では便潜血反応を一次スクリーニングとして行うことが多く、最初から大腸内視鏡検査を大腸がんのスクリーニングとして用いているのはドイツなどごく一部の国に限られます。コストも大事ですからね。
一方で、サーベイランスとは、事前に一定の疾患リスクがある人を対象に、疾患の早期発見を目指す検査のことです。ピロリ菌がいた人への胃カメラや、喫煙者への胸部CT検査などが当てはまります。大腸内視鏡検査の場合は、大腸ポリープ切除後や家族性大腸腺腫症や潰瘍性大腸炎など大腸がんリスクが高い方が対象です。
今回は、便潜血反応陽性の方へのスクリーニングと、大腸ポリープ切除後のサーベイランスにおける精度管理をあわせてご説明します。
精度管理の指標「Quality indicator」
大腸内視鏡検査を行う上で、検査医には高度に専門的な技術が求められます。内視鏡医は、駆け出しの最初の2-3年は、まずは胃内視鏡検査の技術を学び、その後大腸内視鏡検査の習得を目指します。内視鏡指導医のいる専門施設で学ぶことが多いのですが、残念ながら全ての医師が同等の技術を習得できる訳ではありません。そのため内視鏡医がどの程度のレベルに到達しているか、あるいは一定のレベルに到達した後に、日々の検査でそのレベルを維持できているか、客観的な指標が必要だという点です。そこで精度管理の指標として、「Quality indicator (QI)」という概念が用いられます。Quality indicatorとは、「設定した目標を達成するために必要な介入の量」です。大腸内視鏡検査にこの定義を当てはめると、「大腸内視鏡検査で大腸がんの見落としをなくすために、検査医師に求められる客観的かつ計測可能な技術的な指標」ということになります。日本消化器内視鏡学会のガイドラインでは大腸内視鏡検査のQuality indicatorとして「大腸腺腫発見率(Adenoma Detection Rate: ADR)」がとりあげられています。ADRとは大腸内視鏡検査においてどれくらいの確率で腺腫性ポリープが発見されるか、という指標です。
ADRが大腸内視鏡検査のQuality indicatorとなったのは、2010年にADRが低いと「がんの見落とし」の割合が高くなることが証明されたからです。大腸内視鏡検査の目的は大腸がんの早期発見ですから、もちろん見落としは少ないほど良いです。
アメリカ消化器内視鏡学会のガイドラインでは、ADR 25%以上が検査医に求められる資質である、と記載されています。ただADRは患者さんや検査環境によっても影響を受けますから、一概に医師の直接比較はできません。私もADR40%を維持できるように日々精進してまいります。
愛知県名古屋市中村区本陣通2-19
内科 内視鏡内科 糖尿病内科 整形外科
ヴェルヴァーレ本陣クリニック
院長 荻野仁志