今回は大腸ポリープについてです。健診や外来で大腸内視鏡を受けていただくと、検査中に次のようなことを言われると思います。

「大腸ポリープがあるので切除しますね」
「大腸ポリープがありますが小さいので取らないで様子をみましょう」
「これは様子をみていても大丈夫なタイプのポリープです」

さて、どのような基準で大腸ポリープを切除するか、あるいは様子をみるか決めているのでしょうか。簡単に言うと病理結果が腫瘍と予測されるものは切除します。腫瘍とは、正常の大腸粘膜から発生する「自律的に増殖を続ける細胞の塊」です。と言うと分かりづらいのですが、要はもともとの大腸粘膜の構造を逸脱して増殖してしまった組織のことです。非腫瘍性のポリープはなんらかの刺激で大腸粘膜が過形成という変化を起こし粘膜面が盛り上がるもので、これは腫瘍ではありませんので原則癌化することはありません。この点で、「腫瘍性」と「非腫瘍性」のどちらのポリープであるかを事前に予測することが非常に重要な訳ですが、ここが内視鏡医の腕の見せ所です。

一般にポリープと呼ばれるものは盛り上がった構造をしているものを指しますが、大腸ポリープの場合は必ずしもそうではなく、横方向にほぼ平らな状態で広がるものや、逆に陥凹するタイプなどが含まれます。見た目が陥凹したポリープ(陥凹型)のポリープはほぼ全例が腫瘍性ポリープであり、特にこのタイプのポリープには小さくても癌化するものが含まれることがあるなど注意が必要です。

これに対して、盛り上がったタイプ(隆起型)と平たいタイプ(平坦型)のポリープは必ずしも腫瘍性ポリープではなく、非腫瘍性ポリープが含まれます。では、隆起型・平坦型ポリープが腫瘍性であるか否かはどうやって見極めているのでしょうか。通常の内視鏡でもある程度診断はできますが、近年普及してきた「NBI併用拡大観察」という観察法が可能な内視鏡が有効であることが証明されてきています。

大腸内視鏡が普及し始めてしばらくした1990年代「Pit pattern診断(ピットパターン診断)」という診断法が確立されました。

Pit patternとは、大腸粘膜の表面の構造を拡大内視鏡で観察したときに見える模様のことです。普通に拡大しただけでは良く分からないのですが、クリスタルバイオレットという特殊な染色液で粘膜表面を着色することで、表面の構造が見やすくなります。その結果「腫瘍」か「非腫瘍」か、同じがんでもごく浅い「粘膜がん」か深い「浸潤がん」か、さらには浸潤がんの中でも「粘膜下層浸潤がん」と「進行がん」の区別までもが可能となりました。*もちろん例外も多々あります

内視鏡医はこのPit pattern診断を深達度診断の基礎とし、この20年間診断学の確立に日々邁進してきました。私も昔Pit pattern診断について修行しております。その後2000年代にNBIが開発されたことが次のブレイクスルーとなりました。

Pit pattern診断は非常に有効な診断法ですが、欠点の一つが、染色を要するということです。染色法は熟練した内視鏡医でなければ色むらができたり、またうまく染色できていても経験がなければPit pattern診断に結び付けられないなどの限界がありました。また検査時間も長くなってしまいます。

NBI併用拡大内視鏡は染色を必要とせず、拡大してピントを合わせるだけ(と言ってもそれなりに習熟を必要とします)で、再現性のある画像が得られます。NBI併用拡大内視鏡で得られた膨大な数の早期大腸がんの画像の検討の結果、2000年代後半には昭和大学や広島大学をはじめとする多くの専門施設で独自のNBI診断学が確立されました。そして、2010年代に入って、これらの分類を統一し、日本全国共通で使用可能なNBI診断法「JNET分類(The Japan NBI Expert Team分類)」が確立されたのです。

現在は人工知能(AI)を利用した診断学が進んでいます。導入費用が高額なのでまだ一般的ではないですが近いうちに普及していくことと思われます。それまではAIに負けないように日々精進して参ります。よろしくおねがいします。

 

愛知県名古屋市中村区本陣通2-19
内科 内視鏡内科 糖尿病内科 整形外科
ヴェルヴァーレ本陣クリニック
院長 荻野仁志